<レビュー>奇跡に頼らない泣きゲー「ATRI -My Dear Moments-」

ATRI -My Dear Moments-

ANIPLEX.EXE
2020年6月19日発売
レーティング:全年齢
対応プラットフォーム:Windows、(AndroidiOSNintendo Switch

ATRI-My Dear Moments-

以下、作品に関するネタバレを含みます。




2020年6月にANIPLEX.EXE第1弾作品の1つとしてリリースされた「ATRI -My Dear Moments-」(以下、「ATRI」)は
制作をPCゲーム業界(ノベルゲーム)では有名なブランドであるフロントウィンドウと枕が担当するなど
ノベルゲームをもう一度盛り上げようと考えるアニプレックスの気合を感じられる作品となっています。

価格は通常は2,200円(税込み)とPCゲームで言うところのロープライスにあたる価格帯ながら
美しいCGや音楽、しっかりと作られたシナリオを楽しむことが出来ます。

選択肢は3回ほど選ぶ機会があり、ルートは基本的に一本道で迷うことは無いものの
1つだけバッドエンドとされる選択肢がありますが特に悩むほどのものではありません。



物語は、右足を失った主人公が海面上昇により沈んだ街に潜水艇で潜り、
ロボットの少女・アトリと出会うところから始まります。

ジャンルとしては「泣きゲー」とされていますが
この作品は従来の泣きゲーとは少し違うように感じました。

これまでの有名な泣きゲーでは
主要な登場人物が物語終盤で死亡したり、
超常的な奇跡に救われたりして感動を誘う作りが多くあったように思いますが
この「ATRI」では悲しい過去も、これから待ち受ける絶望も全て受け入れた上で前に進みます。

取り戻せない過去も、緩やかに滅びに向かう文明も

悲しい過去も受け入れ、少しでも滅びから逃れるために
もう一度、その一歩を踏み出す。


メインシナリオのクリア後に閲覧できるトゥルーエンドとされるパートも
本当にこれでトゥルーエンドで良いのだろうかとも考えました。

アトリに残された1日を、あの日に取っておいた1日を使って
命が尽きるその時に永遠とも言えるかもしれない空間でアトリとあの日の続きを楽しむ

見方によってはこれこそバッドエンドとも言えるし
ハッピーエンドとも言える。

少し複雑な感情にもなりました。

でもこれでアトリが救われたのなら
これはハッピーエンドです。


ではもう一人のヒロインである水菜萌(みなも、CV.高橋未奈美)はどうでしょうか。

一度はアトリに譲って自らの想いを押し留めるも
機能停止を目前としたアトリに夏生を託された水菜萌

その後に結婚して子供にも恵まれたようですが
夏生の中には常にアトリがいた事を認識し続けた60年間であり
結婚は出来たけど幸せを感じられたのか、少し気がかり。

アトリと再会する前から夏生の事を気にかけていた水菜萌だからこそ幸せであって欲しい。


過ぎてしまった過去は変わらないし、
目の前に迫る絶望を一瞬で解決するような奇跡も起こらない

それでも再び一歩ずつ歩み始めて
少しだけ未来を変えるための手助けをして残りは後に託す。

一番の奇跡はアトリや水菜萌たちと出会えたことかも。


『美味しいは嬉しいですから!』

心を持ったアトリの笑顔と楽しそうな声には明るい気持ちにさせてくれます。


作中にも登場したアトリや夏生と母親を繋ぐ歌でもある「Dear Moments」
オープニング主題歌の「光放て!」

どちらも歌詞に注目して聴くと
プレイ前と後でまた違った景色が見えてくる。

これもノベルゲームの醍醐味の1つですね。


2022年9月に発表されたテレビアニメ化にも期待しています。


ATRI-My Dear Moments-
TVアニメ「ATRI-My Dear Moments-」公式サイト

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